文春・誤嚥記事©️週間文春2020.09.10

飲み込むことは、高齢者にとってこんなにも危険!

普段なにげなく、当たり前に食べ物や水を飲み込んでいます。
それが高齢になると、当たり前ではないのだと知りちょっとショックを受けました。
特に、寝ているときにむせない誤嚥があるとは、ちょっと恐怖です。

加山雄三氏も危なかった『誤嚥』とは?

(以下、週刊文春2020.09.11より抜粋)

もちろんコロナは怖い。日本での累計死者は 約1,400人。だが、その怖さばかりに気を取られ、年間死者が30倍にもなる危険への備えが疎かになってはならない。若大将(加山雄三)を襲っ た「誤嚥」とは何か。それが引き起こす誤嚥性肺炎とは。識者が原因から対策までを説く。

加山雄三氏は脳梗塞を起こしてから、血流を改善する薬を服用していた。20年以上前にタバコもやめ、高血圧でもなかった。それでも誤嚥は避けられなかった。
誤嚥とは、飲み込んだ唾液や水分、食べ物などが、本来は食道を通って胃へ入っていくべきところ、誤って呼吸の通り道である気管へ入ってしまうことだ。
気管は肺に繋がっており、肺に異物が侵入しては一大事。通常は激しくむせ返ったり、咳き込むことで気管から吐き出そうとする反射機能が働く。

厚労省の人口動態統計月報年計(2019年)によれば、誤嚥性肺炎は今や日本人の死因6位。死亡者数は40,000人を超える。肺炎による死亡者の97%は65歳以上の高齢者だが、その多くが誤嚥性肺炎だ。

誤嚥はなぜ起きる?

食べ物や飲み物を口に入れ、飲み込むまでの行為は、大きく3段階に分かれる。
口に含む前に目で見て、匂いをかいだりする「認知期」、
口の中に食べ物を入れて咀嚼する「ロ腔期」に続き、
舌の上に戻した食塊を喋下、つまり飲み込む「咽頭期」がある。

その際、喉頭部にある「喉頭蓋」の機能がポイントになる。これが下の方へ反転することで気管にフタをし、食塊や水分が気管に入らないようになり、ゴクンと飲み込むことができるのだ(下図参照)。これら一連の動作には、ロや喉の周りにある数多くの筋肉が働くが、加齢とともに筋肉は弱まってしまう。これが誤嚥の原因になる。

図-誤嚥はなぜ起きる?

山王病院呼吸器センター内科副部長で、国際医療福祉大学教授の須藤英一医師が解説する。
舌骨筋が弱まることで、喉頭蓋が閉まるタイミングがずれたり、きちんと閉まらなくなる。さらに喉頭そのものが下がり、喉頭蓋と気管の入り口の間に隙間ができてしまう。ここから食塊や水分が入り、誤嚥するのです」

「むせているうちはマシ」

池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師が話す。
「喋下機能が低下していくうちに、やがては反射が弱まり、誤嚥したことに気づかなくなる。自覚症状のないままに誤嚥を起こしていることを『不顕性誤嚥』と言いますが、これが非常に深刻で、誤嚥性肺炎の一番の原因となります」
ただ、食べ物や飲み物を誤嚥して誤嚥性肺炎になることは、さほど多くない。
「それより、就寝時に不顕性誤嚥が起きることが大きな問題なのです。唾液や逆流した胃酸が、寝ている間に自覚のないまま、少しずつ気管を通って肺へ入り込んでいきます。唾液には、ロ腔内に存在する肺炎球菌や嫌気性菌という菌が含まれていて、ほんの少量でも肺に大きなダメージを与え、肺炎を引き起こすのです」

杏林大学医学部附属病院呼吸器内科准教授の皿谷健医師が話す。
「息苦しさが表情に出ればわかりやすいですが、そうでない場合も多い。元気がない様子だったり、さらには意識障害や尿失禁、脱水といった症状が現れることもある。
誤嚥性肺炎になると肺のガス交換がうまくいかず、低酸素状態になるため、心臓に負担がかかります。その結果、不整脈や心不全で亡くなる方も増えるのです」

「喉年齢」を導く方法

嚥下機能の低下は、脳血管障害以外では、喉の周りの筋肉低下と、唾液分泌が減ることも原因。この二つから「喉年齢」を導く方法を考えたのは大谷医師だ。
「まず、水を一口飲んで口中を湿らせます。次に30秒間で何度、唾液を飲み込めるか試してみて下さい。
当クリニックの患者さん372人に協力してもらった結果は以下の通り。
20代……9.8回
30代……8.8回
40代……7.8回
50代……7.0回
60代……6.1回
70代……5.2回
80代……4.5回
高齢になると唾液が減り、嚥下する筋力も低下する傾向が見て取れます。自分の年代の平均より大きく下回っていれば、嚥下機能が低下して誤嚥性肺炎のリスクが高いと考えられます」

肺炎球菌ワクチンも接種すると安心

誤嚥性肺炎も肺炎の一種。二種類の肺炎球菌ワクチンも接種しておこう。
「ニューモバックス」は65歳以上から接種でき、効果が5年続く。8,000円程度の費用がかかるが、自治体によっては半額分の補助が1回出る。それに加えて、10,000円程度の自費診療になるが、「プレベナー」も接種するとより効果的だ。こちらは一度の接種で一生効果が続くとされている。誤嚥性肺炎対策は、コロナ対策と両立できる。むしろ、誤嚥性肺炎対策を心がけることが、コロナ重症化を防ぐことにもなるのだ。

誤嚥予防体操

誤嚥予防体操

(以上、週刊文春より)

下お詳しく知りたい方は、こちらも参照してください。

誤嚥(ごえん)とは 原因・症状・対策

【参照】https://i.ansinkaigo.jp/knowledge/aspiration-howto

誤嚥(ごえん)とは?

本来なら口腔から咽頭、そして食道を通って胃に送られるべき食べ物や唾液が、誤って喉頭と気管に入ってしまうことです。 飲みこむ動作は「嚥下(えんげ)」と呼ばれ、誤嚥が見られる方はこの嚥下に障害が起きていることが多いです。

高齢者がなりやすい誤嚥性肺炎とは?
誤嚥性肺炎とは、誤嚥により飲食物や唾液が肺に達し、細菌感染や化学反応により、肺に炎症を引き起こした状態のことです。
嚥下機能が低下した高齢者がなりやすく、症状が分かりにくいため発見が遅れてしまうことがあります。厚生労働省による平成29年度人口動態統計では、誤嚥性肺炎が原因で亡くなった人は全国で約36,000人に上り、死因順位の第7位となっています。

誤嚥(ごえん)の4つ原因

飲食物を誤嚥
飲みこむ力が弱くなっていたり、飲み込みの反射に障害があったりする場合に起こる誤嚥です。食事の形態に気を付けるなどの方法で危険性を減らすことができます。
食事中だけではなく、口の中に残った飲食物を食後に誤嚥することもあります。

唾液を誤嚥
寝ている時に起こりやすい誤嚥です。唾液と共に口の中の細菌を誤嚥してしまうことがあるので、寝る前の口腔ケアが大切になります。

胃や食道から逆流してきたものを誤嚥
睡眠中に胃液が逆流して誤嚥することがあります。胃液により気道の粘膜が損傷してしまうため、肺炎を起こしやすい誤嚥です。

病気による誤嚥
加齢による嚥下機能の低下以外にも誤嚥を起こすことがあります。例えば、脳血管障害などで嚥下にかかわる神経や筋肉に問題が生じている場合です。また、咽頭癌や食道癌などの腫瘍、舌炎や扁桃炎などの炎症でも誤嚥を生じることがあります。

むせない誤嚥?

飲食物や唾液が気管に入ると、通常は気道を守るためにむせたり咳き込んだりといった反射が起こります。しかし、この反射の機能自体が衰えていると、誤嚥をしてもむせないことがあります。むせない誤嚥は、本人や周囲が誤嚥していることに気づけないケースも多いため注意が必要です。

誤嚥のサイン

  1. 食事中や食後にムセや咳き込みがある
  2. 食事を始めてから痰が増える
  3. 口の中に食べ物が残っている
  4. かすれ声になる
  5. のどがゴロゴロとなる
  6. 寝ているときに急に咳込む
  7. 発熱を繰り返している

誤嚥(ごえん)しやすい食事

とろみのない液体
サラサラとした液体は、のどに流れ込むスピードが速いため誤嚥を起こしやすい食品です。水やお茶といった飲み物の他に、水分の多い果物、汁物、ミキサー食などを食べる時には、とろみ剤などで粘り気を出すなど、誤嚥を予防する工夫が必要です。

口の中でまとまりにくいもの
かまぼこやひき肉、ごぼうやたけのこなどの根菜類、ひじき、焼き魚、ふかし芋、きざみ食などは口の中でバラバラになり、まとまりにくい食べ物です。食事中に誤嚥を起こす原因となるだけではなく、口の中に残りやすいので口腔ケアが不十分だと口の中に雑菌を増やす原因となります。
とろみ剤などで食材をまとめて飲み込みやすくする、とろみのついたあんかけ風にするなど、誤嚥を予防する工夫が必要です。

口や咽頭にくっつきやすいもの
餅やお団子、のり、わかめ、青菜、ウエハース、モナカの皮などは、口や咽頭にくっつきやすい食べ物です。
お餅は窒息事故も起こりやすいため、どうしても食べたい場合には介護食の通販サイトなどで高齢者用のお餅が販売されているので利用するといいでしょう。
生野菜などは塩でもむと食べやすくなります。

水分が少ないもの
パンやゆで卵の黄身など水分が少なくてパサパサしたものは飲み込みづらいため、とろみのついた牛乳やスープなどと一緒に食べるといった工夫が必要です。

硬いもの
たこやいか、ナッツ類など、硬いものは噛みづらく、のどに詰まりやすいため注意が必要です。

誤嚥の検査と治療

診療科
誤嚥かもしれないと思ったら、耳鼻咽喉科といった咽喉頭の検査を得意とする診療科を受けるといいでしょう。発熱が続いていて誤嚥性肺炎が心配な場合には、内科を受診してください。病院によってはリハビリテーション科などで誤嚥の検査を行っている場合もあります。
まずはかかりつけ医に相談をして、誤嚥や嚥下障害の治療を得意としている地域の病院や専門医を紹介してもらってもいいでしょう。

誤嚥の検査
誤嚥の検査では嚥下機能のスクリーニングテストのほかに、必要に応じてカメラを使った内視鏡検査や造影剤を飲み込んでもらうX線造影検査を行うこともあります。

誤嚥の治療
軽度の誤嚥では、その人にあった食事形態の変更や、食事の時の姿勢、食事の介助方法といった嚥下指導や嚥下リハビリによって嚥下機能の改善を目指します。また、原因となっている病気があるようであれば、その治療を行います。

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